(上写真)小林と松本の工房の窓から望む江の浦
2019年、神奈川の木工職人たちの技術と彼らの手から生まれる作品に魅了されたことをきっかけに、木製品メーカーとして起業しました。
事業を始めてから、私は神奈川の工房を訪ね歩き、多くの職人と出会いました。彼らの話を聞くにつれ、ある使命が芽生えてきました。
この職人たちの技術を、もっと多くの人に知ってもらわなければならない。
作り手は忙しく、依頼に応えるだけで日々が過ぎていく。後継者不足、技術に敬意のない価格設定。多くの職人が決して健全とは言いにくい環境にあり、このままでは何世代にもわたり培われた技術は衰退し、次の世代に継承できないのは明らかでした。
同じ頃、移住してきた神奈川県山北町は、自然が豊かで木の良さを肌で感じられる場所ですが、地方の町ならではの問題を抱えており、やはり健全化が必要な状態でした。
技術を持つ木工職人と神奈川の町。私の目の前にある愛すべき人と地、そのどちらも活性化し継承させるためのプロジェクトが「手神」です。
かねてより親交の深いデザイナーの山田佳一朗氏と共に、2021年、私たちは動き出しました。
手神の仲間になってもらうにあたり、「その人にしかできない技術」を持つ職人に声をかけました。世界観のある作品を持ち、受託の仕事だけでなく自分の作品を制作している職人たち。
挽物、指物、寄木、象嵌。彼らは独自の技術と高い精度で、他に類を見ない品々を生み出す彼らを、私は「神の手を持つ職人」と呼んでいます。
作り手には、作品作りに集中してほしい。彼らが本当にやるべきことは、技術を磨き、作品を生み出すことです。
私は自らに作り手と使い手を正しくつなぐことを課し、作り手の技術力を可視化し、世界に伝える役割として、日本だけでなく世界へ足を運び神奈川の職人の魅力を伝えることにしました。
繊細さを伝える。世界に誇る日本の良さを提示する。それは、作り手を守ることであり、同時に、使い手に本物の価値を届けることでもあります。
2025年1月にはニューヨークで開催された「NY NOW 2025」に参加しました。豆茶器と腕時計の評価が特に高く、「手神の職人以外には作れない」という言葉をいただきました。
この言葉は、私たちにとって何よりの励みとなりました。
長い年月をかけて磨かれてきた手神の職人にしか作れない技術。岩宮千尋が作る時計の世界観、斉藤久夫の曲鉋(くせがんな)を用いた微細なろくろ細工をはじめ、小林じゅんのの寄木、松本育の精細な細工、乾靖史の挽物技術は、国境を越えて評価されています。
海外での反応が、日本国内でも良い影響を与えます。評価されるものづくりを続けることで持続可能になる。世界に誇る日本の良さの一つとして、職人の技術を位置づけたいと考えています。
手神は、単なる商品販売ではありません。
職人の技術と価値を正当に評価してもらう仕組みを作ること。伝統技術を持続可能にすること。それが、私たちの使命です。
作り手を取り巻く環境が健全になれば、作り手は安心して技術を磨け、使い手は本物の価値に触れられます。
手紙をしたためるように、想いを手に宿して。
私たちは、これからも作り手の側に立ち続け、職人がもの作りを続けて技術が継承される世界を目指しています。
池谷 賢(手神プロデューサー)